ARTS

相羽高徳壺中展
会期:2016.6.15-6.19
横浜市大倉山記念館
〒222-0037 横浜市港北区大倉山2-10-1

会場となった横浜市大倉山記念館は、1932年に創建されたギリシャ神殿様式の外観を持つ建物で、横浜市指定有形文化財にも指定されています。個展を開催した回廊ギャラリーは、元は坐禅堂として使用されていました。
エントランス部分は、壮大なテーマパーク構想を描いた屏風と、相羽ワールドの原点ともいうべきメイズ(迷路)アートがお出迎え。迷路を通り抜けると、一筆書きのように別の絵が浮かび上がる仕掛けを持ったメイズアートは、創刊間もない『ポパイ』に連載されたり、メイズアートを使った絵本がニューヨークADC賞を受賞したりするなど、相羽最初のヒットコンテンツになりました。

「ラーメンをいちばんおいしく食べられる環境とは?」——相羽の出した答えは、夕焼け空の下に昭和30年代の街並みを再現した『新横浜ラーメン博物館』。リアルな街並みを再現するために、まずこの町の歴史をつくり、住民台帳をつくり、住民たちの人間関係までを詳細に設定。このストーリーをもとに、空間デザインや演出のディテールをつくりこんでいきました。建物のサイズには、ディズニーのテーマパークでも使われている遠近法を利用した仕掛けを採用。建物の上に行けば行くほどスケールを小さくしているので、実際よりも高さがあるように見えるのです。
日本が世界に誇るコンテンツ「忍者」をテーマにしたエンターテイメント・レストラン『NINJA』。現在では東京・赤坂、京都、ニューヨークに店舗がありますが、最初のプランは、ラスベガスに日本をテーマにしたカジノ&リゾートをつくろうというものでした。ラスベガスを想定して描いた絵は、日本の城をモチーフにした高層建築で、温泉もジェットコースターもあります。
現在『NINJA NEW YORK』はトライベッカ地区にありますが、決定するまでにさまざまな候補地がありました。クライスラービルやロックフェラーセンタービルなど、その都度描いた膨大なアートワークが残っています。
今年4月にオープンしたばかりの千葉県柏市のショッピングモール『セブンパーク』のエリア。相羽が提案した建物外装では、巨大なレンガを手描きの絵で表現しています。これは、駐車場を隔てて主要幹線道路の国道16号線から見たときにレンガ造り風に見せるためのフェイク。シンボル施設「ビッグ・ワンダー」は、テーブルの上のさまざまなものが20倍の大きさ(例えばカルピスは高さ6m)になった世界。世界最大級の盆栽アートは、「盆栽の中に入ってみたい」という相羽の夢を実現させました。高さ100mの柏の木が朽ちて倒れた後という設定の巨大な切り株を囲むバーベキューテラスの模型も展示されました。
東北自動車道の羽生PA『鬼平江戸処』は、池波正太郎の代表作『鬼平犯科帳』の世界観と江戸時代の街並みを再現したテーマ型パーキングエリア。時代劇ファンを中心にあまりの人気加熱ぶりに、一般道からもアクセスが可能になりました。
続くアート作品のゾーンでは、相羽が「心のリゾート」シリーズとして描いた絵や、その絵をもとにつくった模型を展示しました。
例えば、相羽がハワイで買ったアンティークなパイナップルの缶詰のカンで盆栽をつくってみたら、そこにゴルフ場がほしくなり、ホテルがほしくなり、気がついたらリゾートホテルになっていた模型。あるいは、上海で買った石を見ていたら、地中海に浮かぶ都市国家の島に見えてきて、そこに町をつくってしまった模型。あるいはまた、ミシュランのキャラクターのビベンダムを、パリの真ん中に立つ都市型リゾートホテルにしてしまった模型。はたまた、マクドナルドのキャラクターのドナルドを、サーカスをテーマにした遊園地リゾートに変身させてしまった模型などなど。ご来場いただいた方の多くが無我夢中で写真やムービーを撮影するエリアでした。
「100年後の東京」は、TOYOTAのスポーツカーブランド〈G’s〉TVCFのために描いたもの。CFでは相羽の描いた未来都市・東京がCGで完全再現されています。
その他、このエリアでは、さまざまなプロジェクト(残念ながら実現には至っていません)のために描いたアートワークをまとめています。例えば、ある企業がお台場にテーマ施設を建設しようとした際に提出したプラン「東京空想科学博物館構想」。ヴィクトリア朝時代のロンドンの町並みに巨大なUFOが降り立ったという設定でつくられています。あるいはまた、福岡アイランドシティのビジネス・ゾーン開発のためのプラン「Asian Business Culture Town構想」。中国・韓国・台湾を含む東アジアと日本をコネクトする“出島”として、インタラクティブ&コンプレックスな機能を集めた施設です。あるいはまた、沖縄本島うるま市の伊計島、宮城島、平安座島、浜比嘉島の4島の未来図=グランドデザインを考えてほしいという依頼を受けて描いたプラン「カジノ&リゾート構想」「エネルギーパーク構想」などなど。
順路のラストは、グーグルアースに夢中になったときに思いついた、“宇宙から企業ロゴが見えるように”設計したリゾートシリーズ「オレオ」「チキータ」「クアーズ」「リッツ・カールトン」。企業ロゴやキャラクターなど、モチーフには明快でシンプルなものが多いことも相羽ワークの特徴です。
さて、個展レポートを締めくくるのは相羽の口癖でもあり、G&Dのコンセプトを語る上で重要なキーワードでもあるこの一言で——「みなさん、喜んでいただけましたでしょうか?」